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荒れた木の表面にあえて印刷|万博で使われた木材がメモリアル作品に

木製品への印刷は、これまでにも数多くご相談いただいています。
木製キーホルダー、コースター、木箱、プレートなど、木材の種類や形はさまざまです。
ただ今回持ち込まれた木材は、これまで扱ったものとは少し違っていました。
大きさは約10cm角。サイコロのような立方体の木材で、5つの面にそれぞれ異なる絵柄をカラー印刷したいというご相談でした。
そして何より印象的だったのが、その木の表面です。
年輪も隙間も残った、荒々しい木材
持ち込まれた木材を見ると、表面はあまり磨かれていませんでした。
年輪がはっきりと見え、部分的には木の隙間や細かな凹凸も残っています。
これまでにも多くの木製品へ印刷してきましたが、ここまで表面の荒れた木材は、私にとっても初めてでした。
通常、木材へカラー印刷する場合は、ある程度平滑な面のほうが安定します。
表面に凹凸があると、インクが十分に届かない部分ができたり、細かな絵柄が途切れたりする可能性があります。木材の隙間へ絵柄が重なれば、画面上のデータと同じようには見えません。
印刷素材として考えれば、決して条件のよい木材ではありませんでした。
万博で使われた木材だった
お話を聞くと、この木材は万博で使われていたものとのことでした。
その木材を利用して、万博に関係するメモリアルイベントの展示作品を作る計画だったようです。
そう聞くと、表面の傷や隙間、はっきりと残った年輪も、単なる欠点とは思えなくなります。
きれいに削り直してしまえば、印刷はしやすくなるかもしれません。しかし、それでは実際に使われていた木材が持つ表情や時間の跡まで失われてしまいます。
今回の作品では、木を新品のように整えることよりも、使われてきた木の姿を残すことに意味があるのではないかと感じました。
10cm角の木材2個へ、それぞれ5面印刷
お預かりした木材は2個です。
それぞれ約10cm角の立方体で、底面を除く5つの面へ異なる絵柄をUVインクジェットプリンターで印刷しました。
通常であれば、持ち込み品への印刷には予備品をご用意いただくことがあります。
特に今回のような一点物に近い木材では、同じものを後から準備するのは簡単ではありません。
しかし、今回は2個とも完成品として使用するため、予備はありませんでした。
その代わり、展示したときに人から見えない底面を、印刷テストに使ってよいとのことでした。
見えない底面で印刷状態を確認
予備品がない以上、いきなり見える面へ本番印刷するのは危険です。
そこで、まず底面を使って、実際にインクがどのように乗るかを確認しました。
木材への印刷では、写真だけでは判断できないことがあります。
- 凹凸部分へインクがどこまで届くか
- 木の地色が印刷色へどの程度影響するか
- 年輪や隙間と絵柄が重なったときにどう見えるか
- 表面へのインクの密着状態
- 印刷ヘッドとの適切な距離
今回は荒れた表面だったため、平滑な木製品のように均一には仕上がりません。
しかし実際に印刷してみると、木の肌や年輪が絵柄の中に残り、それがかえって独特の雰囲気を生みました。
木目を隠す印刷ではなく、木目と絵柄が一緒になって作品を作っているような仕上がりです。
印刷後にクリアを重ねるべきか
印刷後、もう一つ判断が必要でした。
表面へクリアインクを重ねるかどうかです。
クリアインクを使用する場合にも、光沢を抑えたマット仕上げと、艶を出すグロス仕上げがあります。
一般的には、クリアを重ねることで印刷面を整えたり、艶を加えたりできます。
ただし、今回は木材そのものの荒れた質感が、作品の大切な要素になっています。
マット仕上げにした場合
マット系のクリアであれば、強い光沢を抑えながら表面を仕上げられます。
一方で、何もしていない木材と比べると、表面に一層加わった印象になる可能性があります。
グロス仕上げにした場合
グロス系のクリアを使えば、色が鮮やかに感じられ、作品らしい艶を出すことができます。
しかし今回の素材では、艶によって木の荒々しさが弱まり、人工的な印象が強くなるように思いました。凹凸が大きいため、光沢も均一にならない可能性があります。
最終的に「何もしない」と判断
お客様が希望されている作品のイメージと、万博で使われた木材であることを考え、今回はクリアインクを重ねないことにしました。
マットにもグロスにもせず、カラー印刷を行った状態のまま完成としました。
加工する側としては、何かを加えたほうが完成度を高められるように感じることがあります。
しかし、すべての素材に同じ仕上げを加えればよいわけではありません。
今回の木材では、表面をきれいに整えすぎず、荒れた木肌、年輪、隙間をそのまま見せることが、作品の目的に合っていると判断しました。
「何もしない」というのも、仕上げ方法の一つです。
後日、評判が良かったと聞きました
しばらくして、同じお客様が再び来店されました。
今度は、ガラス製のグラスへ刻印してほしいというご相談です。このグラスのお話については、また別の機会にご紹介したいと思います。
その際、木製キューブを展示したときの写真を見せていただきました。
会場でも非常に評判が良かったとのことでした。
残念ながら、当社には完成した作品の写真が残っていません。
それでも、実際の展示の様子を見せていただき、「良かった」と言っていただけたことは、加工した側としてやはりうれしいものです。
荒れた木の表面を見たときは、きれいに印刷できるだろうかという心配がありました。
しかし結果的には、その荒れた表面や木目が作品の魅力になりました。そして、クリアを加えず木の表情を残した判断も、よい結果につながったようです。
素材を整えすぎないほうがよいこともある
木製品へのカラー印刷というと、平らできれいに磨かれた材料を想像することが多いと思います。
もちろん、文字や写真を細部まで正確に再現するなら、表面は平滑なほうが適しています。
しかし、記念作品や展示作品では、均一な仕上がりだけが正解とは限りません。
古材、廃材、建築材、イベントで使われた木材などには、その木が使われてきた時間や物語があります。
傷や年輪を消さず、そこへ新しい絵柄を加えることで、一般的な新品の木製品とは違った作品になることがあります。
今回の仕事は、印刷によって木材をきれいに見せるのではなく、木材が持つ表情を印刷の中へ残した事例となりました。
荒れた木材への印刷も、まずはご相談ください
三栄ぷりんとでは、既製の木製品だけでなく、お客様がお持ちの木材へのUVインクジェットカラー印刷もご相談いただけます。
ただし、荒れた木材へ印刷した場合、絵柄の一部が途切れたり、色が均一にならなかったりすることがあります。
今回のような仕上がりは、すべての木材で再現できるものではありません。
ご相談の際は、次の情報をお知らせください。
- 木材全体と印刷面の写真
- 縦・横・厚さ
- 表面の凹凸や隙間の状態
- 塗装やコーティングの有無
- 印刷する絵柄と大きさ
- 印刷する面数
- 必要数量
- テストに使用できる部分
- 予備品の有無
- 希望する完成イメージ
「木目を残したい」「古材の雰囲気を活かしたい」「記念の木材を作品にしたい」といった場合は、素材の状態と用途を確認しながら、印刷方法や仕上げ方を検討します。
素材をきれいに整えることだけでなく、その素材らしさをどこまで残すか。
今回の仕事を通して、改めてその判断の大切さを感じました。
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