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名入れ加工用の治具を3Dプリンターで作る|設計・試作・運用で確認したいこと

UVレーザー刻印やUVインクジェット印刷では、加工機の設定やデータ作成に目が向きがちです。
しかし、実際の作業では「品物をどのように置くか」が、仕上がりや作業効率を大きく左右します。
特に、ボールペンのように転がるもの、底面が平らでない小物、向きを間違えやすい製品などを複数加工する場合、目測だけで位置を揃えるのは簡単ではありません。
そこで必要になるのが、品物を一定の位置、向き、高さにセットするための治具です。
当社では以前から3Dプリンターを使用していましたが、新しい機種を導入してから造形時間が短くなり、治具を試作して修正する流れが以前より身近になりました。
今回は、名入れ加工用の治具を3Dプリンターで製作するとき、どのような点を考えて設計・試作しているのかをご紹介します。
名入れ加工用治具の目的を最初に決める
治具を設計するときは、最初に「何を解決するための治具なのか」を整理します。
単に品物が入る枠を作るだけでは、実際の作業で使いやすい治具にはならないことがあります。
名入れ加工用の治具には、主に次のような役割があります。
- 品物の加工位置を揃える
- 品物の向きを揃える
- 転がりや位置ずれを防ぐ
- 加工面の高さを一定にする
- 加工面の傾きを調整する
- 品物を素早く交換できるようにする
- 表裏や上下の取り違えを防ぐ
- 再注文時に加工位置を再現しやすくする
1個だけを慎重に加工する場合と、同じ品物を100個加工する場合とでは、治具に求められる機能も変わります。
数量が多い仕事では、固定精度だけでなく、品物を入れやすく、外しやすいことも重要です。
品物の寸法どおりに作ればよいとは限らない
治具を作る最初の作業は、品物の寸法を測ることです。
縦、横、高さだけでなく、角の丸み、出っ張り、くぼみ、側面の傾斜なども確認します。
ただし、測定した寸法をそのままCADへ入力し、品物と同じ大きさの穴を作っても、きつくて入らないことがあります。
3Dプリンターで造形したものには、設計データと完成寸法の間にわずかな差が生じます。また、加工する品物自体にも個体差があります。
そのため、実際の治具では、品物が無理なく入るための余裕を設けます。
余裕が少なすぎれば品物が入りません。反対に、大きくしすぎると治具の中で品物が動き、加工位置が安定しません。
必要な余裕は、次のような条件によって変わります。
- 品物の材質
- 製品の個体差
- 治具へ入れる方向
- 必要な位置精度
- 造形方向
- 3Dプリンターの造形状態
- 使用するフィラメント
- 品物を交換する回数
最初から数値だけで決めきるのではなく、試作して実物を入れ、調整することが必要です。
FreeCADで修正しやすい設計にする
当社では、治具の設計に無料で利用できる3D CADソフトのFreeCADを使用しています。
治具は一度設計して終わりではありません。実物をセットした結果に合わせて、幅、長さ、深さ、間隔などを修正することが多くあります。
そのため、後から寸法を変更しやすい設計にしておくことが大切です。
例えば、複数の品物を並べるマス状の治具であれば、次のような項目を変更できるようにします。
- 品物の縦寸法
- 品物の横寸法
- マスの間隔
- 縦方向の個数
- 横方向の個数
- 外周枠の太さ
- 治具全体の高さ
- 品物を支える部分の高さ
- 寸法の余裕
- 取り外し用の切り欠き
数値を変更するたびに形状全体を作り直すのではなく、主要な寸法を変数として扱えるようにしておけば、別の商品用治具へ展開しやすくなります。
以前作った治具の構造を利用し、品物の寸法や配列数だけを変えて新しい治具を作ることもできます。
Pythonコードを利用した治具作成
FreeCADは、画面上で図形を描くだけでなく、Pythonコードによって形状を作ることもできます。
私自身、以前はプログラミングに対する苦手意識があり、この機能をほとんど使っていませんでした。
しかし、生成AIにコード作成を補助してもらうことで、寸法を変更できる治具のひな型を作れるようになりました。
例えば、四角いマスを縦横に並べる治具であれば、品物の大きさ、マス数、間隔、枠の太さなどを変数として用意します。
新しい品物へ対応するときは、それらの数値を変更することで、基本形状を作り直せます。
もちろん、生成されたコードが最初から正しく動くとは限りません。
FreeCADのバージョン、オブジェクトの作り方、画面表示、形状同士の演算などによって、修正が必要になることがあります。
それでも、一度使える基本コードを作っておけば、同じ構造を持つ治具の設計時間を短縮できます。
最初の試作で確認すること
治具を出力したら、まず実物の品物をセットして確認します。
この段階では、レーザー加工機やUVプリンターへ置く前に、治具単体で使い勝手を見ます。
主な確認点は次のとおりです。
品物が無理なく入るか
きつすぎると、品物や治具を傷める可能性があります。何度も交換する仕事では、少しのきつさが大きな作業負担になります。
治具の中で動かないか
余裕が大きすぎると、セットするたびに位置が変わります。どの方向の動きを止める必要があるかを確認します。
品物を取り外せるか
品物がきれいに収まっても、指が入らなければ簡単に取り出せません。必要に応じて指を入れる切り欠きや、押し出すための穴を設けます。
上下や表裏を間違えないか
左右非対称の形状やストッパーを設けることで、決められた向きにしか入らない構造にできます。
加工面が水平になっているか
品物の底面が平らでも、加工したい面が水平とは限りません。必要であれば、治具の受け部分へ高さの差を付けて傾きを調整します。
加工機の中で干渉しないか
治具単体では問題がなくても、加工機へ置くと枠や出っ張りが邪魔になることがあります。レーザーの加工範囲や、UVプリンターのヘッドとの位置関係も確認します。
固定しすぎないことも重要
治具というと、品物を強く締め付けるものを想像するかもしれません。
しかし、UVレーザー刻印やUVインクジェット印刷に使う治具では、強力な固定が必要とは限りません。
重要なのは、加工中に品物が動かず、毎回同じ位置へ置けることです。
締め付ける構造を増やしすぎると、品物の交換に時間がかかります。また、柔らかい素材や塗装された製品では、固定部分が傷の原因になることもあります。
品物を置くだけで位置が決まるのか、軽く押さえる必要があるのか、板バネのような構造が必要なのかを考えます。
数量が多い加工では、固定の強さと交換のしやすさのバランスが重要になります。
PLAは試作や位置決め治具に使いやすい
当社では、治具の用途に応じてPLAなどのフィラメントを使用しています。
PLAは比較的扱いやすく、一般的な位置決め治具や試作用途に使いやすい材料です。フィラメントも以前より入手しやすくなり、形を試しながら修正する使い方がしやすくなりました。
一方で、PLAがすべての治具に適しているわけではありません。
高温になる場所、強い力が継続してかかる場所、柔軟性や耐衝撃性が必要な用途などでは、別の材料や構造を考える必要があります。
名入れ加工用治具では、品物を強く締め付けるよりも、位置と高さを揃える目的で使うことが多いため、PLAで対応できる場合が比較的多くあります。
造形時間が短くなり、試作の考え方が変わった
以前使用していた3Dプリンターでは、小さな治具でも造形にかなり時間がかかることがありました。
そのため、すべての仕事で気軽に専用治具を作ることはできず、厚紙、板材、テープ、ストッパーなどで対応することもありました。
新しい3Dプリンターでは造形が速くなり、その日のうちに試作して、実物を入れて確認しやすくなりました。
最初から完成品を目指すというより、
- 基本形状を設計する
- 簡単な試作を出力する
- 実物をセットする
- 問題点を確認する
- 寸法や構造を修正する
- 修正版を出力する
という流れを取りやすくなりました。
造形速度が上がったことは、単に治具が早く完成するというだけではありません。試作と修正を繰り返せる回数が増えたことに、大きな意味があります。
量産作業では取り外しやすさが効いてくる
治具の使いやすさは、数個を加工しただけでは分からないことがあります。
10個、50個、100個と交換を繰り返すと、品物の入れにくさや取り外しにくさが作業時間に影響します。
例えば、1個の交換に数秒余計にかかるだけでも、数量が多ければ全体では大きな差になります。
また、同じ動作を繰り返すことで指が疲れたり、無理に外そうとして品物を落としたりすることも考えられます。
量産用治具では、次の点も確認します。
- 一定の動作で品物をセットできるか
- 指が入りやすいか
- 加工後の品物を持ち上げやすいか
- 左右や上下を迷わないか
- 治具自体が加工機の中で動かないか
- 造形時のバリなどが品物に当たらないか
治具の設計は、品物を固定するためだけでなく、実際の作業動作を設計することでもあります。
治具と加工データをセットで管理する
専用治具を作っても、保管方法を決めていなければ、再注文時に使えなくなることがあります。
治具を見ただけでは、どの商品に使用したものか分からないからです。
そこで、治具には品物名や方向が分かる表示を付け、加工データと関連付けて管理します。
少なくとも、次の情報を残しておく必要があります。
- 対象となる商品
- 使用した治具
- 品物を入れる方向
- 加工面の向き
- 加工データ名
- 加工機での設置位置
- レーザーや印刷の設定
- 試作時に修正した内容
- 使用したフィラメント
同じ商品を再度加工する場合でも、製造時期によって形状や寸法が変わる可能性があります。そのため、再注文時には治具へ入るかどうかを改めて確認します。
治具、設計データ、加工データ、設定値を一つの組み合わせとして管理することが、再現性につながります。
3Dプリンターは加工機を支える設備になった
3Dプリンターで製作した治具は、お客様へ納品する商品ではありません。
しかし、UVレーザーやUVインクジェットプリンターによる名入れを安定させるために、重要な役割を持っています。
加工機の性能が高くても、品物の位置や高さが毎回変われば、安定した加工はできません。
寸法を測り、FreeCADで設計し、3Dプリンターで試作し、実物を入れて修正する。この一連の作業も、オリジナルグッズ制作の一部です。
新しい3Dプリンターによって、治具を作る速度だけでなく、「まず作って試してみる」という取り組み方が変わりました。
今後も実際の仕事で見つかった問題を設計へ反映し、使いやすく再現性のある治具作りを進めていきたいと思います。
⇒ 持ち込み品への名入れを検討されている方は、「持ち込み品への名入れは、複雑な形でもできる?専用治具で加工する方法」もご覧ください。
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