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うまく印刷できなかった素材から分かったこと

UVインクジェットプリンターを導入してから、金属、アクリル、木材、革、プラスチックなど、さまざまな素材へカラー印刷を行ってきました。
きれいに仕上がり、お客様に喜んでいただけた仕事がある一方で、思ったように印刷できなかった素材もあります。
印刷直後はきれいに見えたのに、爪でこするとインクが剥がれてしまった。表面の凹凸が深く、細い文字が欠けて見えた。柔らかい素材を曲げると、印刷部分に負担がかかった。
このような経験をすると、がっかりするのは確かです。
しかし、うまく印刷できなかったからこそ分かったこともあります。
それは、「プリンターに入ること」「インクが載ること」「商品として使えること」は、それぞれ別の判断だということです。
今回は、うまく印刷できなかった素材を通して、持ち込み品への印刷で大切だと分かったことをご紹介します。
印刷直後にきれいでも、成功とは限りません
UVインクジェットプリンターは、素材の表面へインクを吐出し、紫外線を当てて硬化させます。
印刷が終わった直後に見ると、文字や絵柄がきれいに載っているように見えることがあります。
しかし、見た目がきれいだからといって、実用品として問題がないとは限りません。
軽く爪でこすっただけで剥がれる、テープと一緒にインクが取れる、曲げるとひびが入るという場合、そのまま商品として納品することはできません。
印刷の可否を判断するときは、少なくとも次の2段階に分けて考える必要があります。
- 希望する絵柄を印刷できるか
- 想定する使い方に耐えられるか
飾っておく品物と、毎日手で触れる品物では、必要な耐久性も異なります。
印刷直後の見栄えだけで判断せず、実際の用途を考えた確認が必要です。
赤いサインペンへの印刷で起きたこと
以前、赤いサインペン約100本へ、指定された文章をUVインクジェットで印刷する仕事をお受けしました。
形状としては印刷機へ入れることができ、表面にも文字を印刷できました。
ところが、印刷後に確認すると、爪でしごくようにこすっただけで、インクがきれいに取れてしまいました。
印刷はできています。文字も見えています。
それでも、手で頻繁に触れるサインペンとしては、安心して使用できる状態ではありませんでした。
この経験から、「プラスチックだから印刷できる」と一括りにしてはいけないことを改めて学びました。
プラスチックには多くの種類があります。さらに、その表面には着色、つや消し、コーティング、滑り止めなど、さまざまな処理が施されています。
同じ赤いペンに見えても、インクとの相性は製品ごとに違います。
素材名が分かっても、表面の状態までは分かりません
お客様から「素材はプラスチックです」「アルミです」「革です」と教えていただくことがあります。
これは加工方法を考えるうえで大切な情報です。
しかし、素材名だけで印刷の可否を確定することはできません。
UVインクが接するのは、素材の内部ではなく一番外側の表面です。
例えば、アルミ製品でも、実際にインクが接する部分には塗装やアルマイト処理が施されていることがあります。革製品にも、顔料、オイル、ワックス、撥水剤などが使われている場合があります。
プラスチック製品も同様です。
つまり、印刷の密着性を左右するのは、素材そのものだけでなく、その上にある表面処理です。
見た目や触った感覚だけでは、表面処理の内容が分からないことも少なくありません。
そのため、初めて扱う製品では、実物へのテストが重要になります。
表面が柔らかい素材では、インクとの硬さの差が問題になります
印刷する素材が柔らかい場合は、インクが素材の動きについていけるかを確認する必要があります。
例えば、柔らかい革や合成皮革へ印刷した場合、平らな状態ではきれいに見えても、折り曲げると印刷部分に負担がかかります。
インク層と素材の硬さに大きな差があると、次のような問題が起きる可能性があります。
- 曲げた部分に細かなひびが入る
- 印刷面が白っぽく変化する
- 端からインクが浮く
- 繰り返し曲げることで剥離する
- 素材本来の柔らかさが変わる
財布、バッグ、手帳カバーなどは、日常的に曲げや摩擦を受けます。
一方、革製コースターや硬いタグなど、ほとんど曲げない品物もあります。
同じ革でも、何に使用するかによって、印刷を採用できるかどうかの判断は変わります。
凹凸のある木材から学んだこと
木材への印刷では、木目を生かした自然な仕上がりが魅力になります。
しかし、木材の表面が大きく荒れていたり、年輪に深い隙間があったりすると、平滑な木板と同じようには印刷できません。
以前、10センチ角ほどのサイコロ状の木材へ印刷するご相談がありました。
持ち込まれた木材は、表面があまり磨かれておらず、年輪や隙間がはっきりと残っていました。後から聞くと、万博で使われていた木材とのことで、その素材自体に意味があるものでした。
このような木材では、インクが凹部まで均一に届かず、細い線や小さな文字が欠けて見えることがあります。
最初は、表面の粗さを「印刷しにくい条件」として見てしまいます。
しかし、木目や使用跡を消さずに印刷することで、その木材が持つ背景や時間を残せることも分かりました。
平らで均一に仕上がることだけが、必ずしも正解ではありません。
仕上がりの不均一さを不良と見るのか、素材の個性として生かすのかは、完成品の目的によって変わります。
インクが均一に載らない原因は一つではありません
印刷結果が安定しない場合、原因は素材との相性だけとは限りません。
考えられる要因には、次のようなものがあります。
- 表面に油分や汚れが付いている
- 撥水・防汚加工が施されている
- 表面の凹凸が深い
- 素材が静電気を帯びている
- 印刷面が傾いている
- 品物の高さが一定でない
- 素材が柔らかく、設置時に変形する
- 表面処理に個体差がある
- 印刷面とヘッドの距離が適切でない
- 印刷後に強い摩擦や曲げが加わる
このうち一つだけが原因の場合もあれば、複数が重なっている場合もあります。
印刷条件を変えることで改善することもありますが、条件変更だけでは解決できない素材もあります。
その場合は、無理にUV印刷を続けず、別の加工方法を検討します。
UV印刷が難しいときは、レーザー刻印も検討します
カラー印刷の密着性に不安があるとき、素材によってはUVレーザー刻印へ変更できる場合があります。
UVインクジェット印刷は、素材の表面へインクを載せる加工です。
一方、UVレーザー刻印は、レーザーによって素材の表面を変化させます。インクを載せないため、インクが剥がれるという問題はありません。
ただし、レーザー刻印にも向き不向きがあります。
- フルカラーでは表現できない
- 素材によって刻印色が変わる
- 柔らかい素材では摩擦の影響を受ける場合がある
- 表面加工だけが取れることがある
- 強い設定では素材を傷める可能性がある
- 素材によっては刻印自体が適さない
先ほどのサインペンでもレーザー刻印を検討しましたが、日常的に強く触れる柔らかい部分では、刻印後の状態まで確認する必要がありました。
「印刷が難しいから、レーザーなら必ず大丈夫」ということではありません。
印刷と刻印の両方を試し、品物の用途に合う方法を選ぶことが大切です。
色を出すことと、密着させることは別の課題です
濃い色の素材へカラー印刷するときは、白インクを下地として使用します。
白インクの上へカラーを印刷すれば、黒や紺の素材でも写真やロゴが見えやすくなります。
しかし、白インクによって発色が改善しても、素材への密着性が改善するとは限りません。
白インクがきれいに載っていても、その一番下の層が素材へ十分に密着していなければ、カラー層ごと剥がれる可能性があります。
また、白とカラーを重ねることでインク層が厚くなり、柔らかい素材では曲げに対する負担が増えることもあります。
試作では、次の項目を別々に確認する必要があります。
- 希望する色が見えるか
- 細部を再現できているか
- 素材へ十分に密着しているか
- 曲げや摩擦へ対応できるか
- インクの厚みが使用感を変えないか
色がきれいに出たことだけで、本番へ進めることはできません。
テスト加工は、悪い結果を見つけるためだけではありません
テスト加工には、「失敗しないか確認する」という意味があります。
しかし、それだけではありません。
実際に印刷してみることで、その素材に合ったデザインや加工方法が見つかることもあります。
例えば、次のような変更が考えられます。
- 細い文字を少し太くする
- 写真の明暗差を強くする
- 印刷範囲を小さくする
- 曲がりやすい場所を避ける
- 白インクを部分的に使用する
- 素材の地色をデザインに取り入れる
- カラー印刷から単色刻印へ変更する
- 完成品ではなく、組み立て前の平らな部材へ印刷する
- 使用頻度の低い位置へ印刷する
最初に希望した方法が難しくても、目的を確認すれば、別の方法で実現できることがあります。
大切なのは「この方法で印刷すること」ではなく、「どのような仕上がりの品物を作りたいのか」です。
予備品が必要な理由
持ち込み品への加工では、可能であれば予備品をご用意いただくようお願いしています。
予備品は、加工中の破損に備えるためだけのものではありません。
次のような確認にも使用します。
- インクが密着するか
- 白インクが必要か
- 希望する色が出るか
- 表面を傷めないか
- 印刷位置が合っているか
- 細い文字を再現できるか
- 摩擦や曲げにどの程度対応できるか
試作した品物は、そのまま商品として使用できない可能性があります。
特に、数量が多い仕事や、同じ品物を再入手しにくい仕事では、本番前の確認が重要です。
高価な品物や一点物で予備を用意できない場合は、どこまでテストできるかを相談しながら進めます。
うまくいかなかった記録を次の仕事へ残します
試作で良い結果が出なかった場合でも、その記録は無駄にはなりません。
次のような情報を残しておくことで、似た製品の相談を受けたときに役立ちます。
- 品物の素材
- メーカーや品番
- 表面の状態
- 使用した印刷方法
- 白インクの有無
- 印刷条件
- 密着確認の結果
- 曲げや摩擦の結果
- 問題が起きた場所
- 別の加工方法を試した結果
同じ素材名でも、製品によって結果が違うことがあります。そのため、「プラスチックは不可」「革は可能」という大きな分類ではなく、具体的な製品と結果を組み合わせて記録します。
うまくいかなかった経験が増えるほど、最初の相談段階で確認すべき点も分かるようになります。
「できない」と分かることも大切な結果です
加工を依頼されると、できる限り希望に応えたいと思います。
しかし、十分な密着性が得られない品物へ無理に印刷しても、お客様が使用しているうちに剥がれてしまえば、良い商品にはなりません。
テストの結果、次のような判断をすることもあります。
- この素材へのカラー印刷はおすすめしない
- 印刷位置を変更したほうがよい
- 日常使用ではなく展示用に限定する
- カラー印刷ではなくレーザー刻印に変更する
- 別の素材の品物を選ぶ
- 同じ形で表面処理の異なる製品を探す
「できない」という結果も、本番で大きな失敗を起こさないための重要な情報です。
そのうえで、別の方法を一緒に考えることが、加工店の役割だと思っています。
持ち込み品は、写真と素材情報からご相談ください
UVインクジェットプリンターは、さまざまな素材へ直接カラー印刷できる便利な機械です。
しかし、「何にでも同じように印刷できる機械」ではありません。
これまでうまく印刷できなかった素材から、次のことを学びました。
- 素材名だけでは印刷結果を判断できない
- 表面処理が密着性を左右する
- 印刷直後の見た目だけでは判断できない
- 発色と密着性は別々に確認する
- 完成品の使い方まで考える
- 柔らかい素材は曲げ試験が必要
- 凹凸は欠点にも個性にもなる
- 別の加工方法が適している場合もある
- 予備品とテスト加工が失敗を減らす
- 対応できないと判断することも品質管理の一部
持ち込み品への印刷をご希望の場合は、次の情報をお知らせください。
- 品物全体の写真
- 印刷希望部分の拡大写真
- 分かる範囲での素材情報
- メーカー名や品番
- 品物の縦・横・高さ
- 印刷したい内容と大きさ
- 数量
- 実際の使用方法
- 予備品の有無
- ご希望の納期
写真だけでは判断できない場合は、実物を確認し、テスト加工を行ったうえで対応の可否をご案内します。
きれいに印刷できた事例だけでなく、うまくいかなかった経験も、次の仕事をより確実に進めるために生かしていきます。
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